2023.09.29
特集:野田真吉「心意」を撮る
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記録映画作家の野田真吉は、戦前からそのキャリアを開始し、戦後日本の記録映画史を知悉した評論家でもありました。1970年代以降は、民俗学的な関心をもった映画制作に取り組み、自主制作によって『冬の夜の神々の宴 遠山の霜月まつり』(1970年)、『ゆきははなである 新野の雪まつり』(1980年)、『生者と死者のかよい路 新野の盆おどり 神送りの行事』(1991年)を制作します。これらは、同時代に野田が映画制作者や研究者とともに模索を始めた「映像民俗学」の実践的な映画作りとして、それぞれに異なった風貌を持つ作品となっています。
1970年から90年代にかけて、野田が民俗学のアイデアやパースペクティブを取り入れながら、映画独自の技法を駆使して表現しようとしたのは、目に見えない心の中の文化である「心意」でした。
没後30年を迎え、2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で特集が組まれるなど、再評価と検証の機運が高まる記録映画作家の野田真吉が、後半生に情熱を注いだ「映像民俗学」の代表作3作をお送りします。
『冬の夜の神々の宴 遠山の霜月祭』(1970年/37分/モノクロ)
日本各地の神々を招き、一晩のあいだ湯を献じ、舞を奉納して一年の無病息災を願う「霜月まつり」が、長野県飯田市の遠山郷に複数伝えられている。下栗地区の祭を映した本作では、村人が全国の神々を勧請する神明帳を読み上げ、湯立てを行い、場を清める舞などを納めると、神々が次々と現れ舞いはじめる。後年「映像民俗学」の創出に情熱を捧げることになる記録映画作家の野田真吉が、夢幻のように現れる神々と人間との一夜の交流を詩的に描き上げた。
『ゆきははなである 新野の雪まつり』(1980年/129分/カラー)
長野県阿南町新野で正月に行われる「新野の雪まつり」は、春先に降る雪を豊穣の先触れとする予祝の行事である。祭場には「さいほう」をはじめとする〈まれびと〉が次々と現れ、呪術的な舞や祝言で一年の豊穣を祈願する。「映像民俗学」の方法論を模索していた野田真吉が、1975年から79年の4年をかけて撮影。祭の初めから終わりまでをじっくりと記録し、衰えた生命力を振るわせるハレの場として祭の構造を捉えようとした長編記録作品。
『生者と死者のかよい路 新野の盆おどり 神送りの行事』(1991年/36分/カラー)
晩年「映像民俗学」の創出に情熱を注いだ記録映画作家の野田真吉が、1981年から86年の5年をかけて、長野県阿南町新野で行われる「新野の盆踊り」と「神送り」を記録した。町の人々が8月のお盆を徹して踊り、三夜が明ける早朝に、祖霊とその年亡くなった新霊を東の空に向かって送り出す。死者との束の間の交歓、別れと名残、次の盆の到来を待ち侘びる気持ちが、生者の踊りや歌によって感情豊かに描かれる。目に見えない心の中の文化である「心意」を、映像で捉えることを目指した野田真吉の最後の完成作品。