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2021.05.30

特集:鳥の気持ちになるー日本の鳥猟ー

特集「鳥の気持ちになるー日本の鳥猟ー」では、丹念な取材と撮影による民俗映像を次々と発表している今井友樹監督の代表作『鳥の道を越えて』『坂網猟』の2作をお送りします。

『鳥の道を越えて』は、監督の故郷、岐阜県の東白川村で戦後まで行われていた「カスミ網猟」という鳥猟の謎を追って各地を取材します。空を自由に飛ぶ鳥をどのように網で捕まえたのか?わずかな痕跡をたよりに探っていくと、鳥の習性を巧みに利用して、網へと誘い込んできた昔人の知恵が姿を現します。それは、鳥の気持ちを想像し、同化することでなしうるわざ。現代とは異なる、日本人と自然との関わり方です。

『坂網猟』は、石川県加賀市にある片野鴨池で、現代もつづく「坂網猟」の記録。網を張ったY字型の竿を垂直に投げ上げて、飛翔する鴨を捕らえます。投げ上げる技術が猟果を左右するダイナミックな猟。素早く方向転換する鴨にタイミングを合わせる超絶技巧のポイントは、やはり鳥の気持ちを想像することです。現役の猟師たちの語るわざに、自然への卓越した観察力が見え隠れします。

作品では、自然環境や鳥獣保護をめぐる社会の考え方に伴って鳥猟がどのように変化してきたのかについても触れられます。ほとんど姿を消してしまった「カスミ網猟」、かたや文化財として受け継がれている「坂網猟」の変遷に、現代に至るまでの日本人の自然観が映し出されます。

かつて渡り鳥の群が、大空を真っ黒に埋め尽くしたといいます。映画を見終わると、その群れが行き交ったという空中の「鳥の道」が、少しだけ見えるようになります。人と自然の関係を多角的に描いた、優れた映像民俗誌をぜひご覧ください。

「鳥と人」(今井友樹監督)

鳥と人の歴史は、深い。

それは鳥が人間の想像力と結びついているからだと思う。
私が鳥と人をテーマに映像制作を始めた頃、民族文化映像研究所の映像記録作家・姫田忠義(1928-2013)に言われた言葉が忘れられない。「人は、水中で魚を追いかけても、泳ぎでは魚には勝てない。野山で猪や鹿を追いかけても、足の速さでは彼らには勝てない。まして空を自由に飛び回る鳥はどうだろうか。飛べない人間は、鳥に勝てないどころか憧れをも抱くだろう。しかし、勝てないでは生きていくことができない。長い間、自然の中で生きてきた人間は、動物を観察し、動物のいのちをいただく術を身につけてきた。そのことをどう考えるのか。」これは現代に生きる私たちにとって、今なお大切な問いである。

 

【シネマ館】 『鳥の道を越えて』(2014年/93分)
【シネマ館】 『坂網猟 −人と自然の付き合い方を考える−』(2018年/42分)

 

《特集:鳥の気持ちになるー日本の鳥猟ー》予告編

■『鳥の道を越えて』

映画の舞台は監督・今井友樹の出身地、岐阜県東白川村。あるとき祖父・今井照夫から、かつて故郷の空が渡り鳥の大群で埋め尽くされたという話を聞かされる。孫である監督は“鳥の道”を探し求めて旅にでる。渡り鳥の大群が渡っていた時代、村では「カスミ網猟」が行われていた。渡り鳥を「カスミ網」でどのように捕まえたのか。なぜ渡り鳥を食べなければならなかったのか。そしてなぜ現在は禁猟になっているのか。旅の過程で生まれるひとつひとつの疑問を丹念に追っていく。
(93分/2014年/HD/カラー)

平成26年度文化庁映画賞文化記録映画優秀賞
第88回キネマ旬報文化映画部門第1位
第2回グリーンイメージ国際環境映像祭グリーンイメージ賞
第56回科学技術映像祭内閣総理大臣賞

■『坂網猟 −人と自然の付き合い方を考える−』

現代社会が忘れてかけている感覚を取り戻す。

片野鴨池(石川県加賀市)で伝承される坂網猟は、藩政期から続く伝統猟法であり、池周辺を低く飛び越えるカモを捕獲する。
空を自由に飛ぶ野生のカモをいったいどうやって捕まえるのか。なぜ坂網猟が300年以上も前から片野鴨池で伝承されているのか。伝統を守ってきた坂網猟師たちの姿と猟の技、片野鴨池の自然環境を紐解きながら、そのヒミツに迫る。
(42分/2018年/HD/カラー)

第6回 グリーンイメージ国際環境映像祭 グリーンイメージ賞
映文連アワード2018 部門優秀賞(ソーシャル・コミュニケーション部門)
第92回 キネマ旬報ベストテン 文化映画部門第12位
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