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2021.02.20

特集:交叉する震災と芸能

命を育み、時に奪う海。

海辺に暮らす人たちは、その両極の姿に感謝と畏怖の念を覚えてきました。人間は祭りや芸能を通して、海と長きにわたって向き合ってきたといえます。

2011年に起きた東日本大震災により岩手県や宮城県の沿岸部は大きな被害を受けました。三陸に伝わる民俗芸能は、震災後それぞれに活動を再開し、被害を受けた人たちを元気付けたり、亡くなった方の慰霊を行うなど、伝統的なやり方でその傷を回復しようとしてきました。大きな脅威をもたらした海に対する思いは、人それぞれ変化しながら、儀礼や芸能のパフォーマンスのなかで表現されています。

東日本大震災の発生から満10年となる今年、震災以前から三陸を舞台に伝えられてきた民俗芸能を取り上げた二つのドキュメンタリー作品を配信します。

【シネマ館】『廻り神楽』(2017年/94分)
【シネマ館】『海の産屋 雄勝法印神楽』(2018年/77分)

《特集:交叉する震災と芸能》予告編

■『廻り神楽』(遠藤協・大澤未来監督)

岩手県の沿岸部を、冬のあいだ各地を移動しながら祈りの神楽を舞う人たちがいます。岩手県宮古市の黒森神社に伝わる黒森神楽です。「権現様」と呼ばれる獅子頭を携えて各地を巡り、海や山などの自然の神々の化身となって舞い踊ります。人々の願いを受け止めながら340年以上続けられてきました。
黒森神楽の大きな特徴は、「神楽念仏」といって、亡くなった人の霊を弔う舞を行うことです。神仏混淆の修験の流れを汲むという黒森神楽ならではの舞です。
岩手県の三陸沿岸を巡行する黒森神楽

また、復興工事の進む沿岸各地では、人々の再出発を祝福する黒森神楽の姿がみられるようになりました。高台移転により新築した家では「柱固め」の舞が行われます。権現様が家の柱を噛む仕草をして祓い清め、家内繁栄を祈るのです。ある港では海上安全と大漁を祈る「船祝い(ふないわい)」が行われました。悲劇と再生に寄り添ってきた黒森神楽。東日本大震災だけでなく、これまでの大津波の際にも、きっと人々のよろこびと悲しみに伴走してきたことでしょう。だからこそ、この地域で340年以上も続いて来たのかもしれません。

第73回毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞受賞作品
キネマ旬報2017年文化映画ベスト・テン作品
海上安全と大漁を祈る「船祝い」

■『海の産屋 雄勝法印神楽』(北村皆雄・戸谷健吾監督)

宮城県雄勝半島に伝わる「雄勝法印神楽」を取材した北村皆雄・戸谷健吾監督による本作は、東日本大震災の翌年2012年に撮影された記録です。神楽が伝わる立浜(たちはま)地区は、大津波により46軒中1戸だけを残して被災。生業の礎であるホタテや牡蠣の養殖棚、道具、船もいっさい流されました。そんななか、この地での再起を決意した12人の漁師たちが祭りと神楽の復興に奔走します。流された面や衣装、道具を揃えます。全国からの支援も寄せられました。祭りの当日には、他地区に避難していた人々が帰って来て再会を喜びあいます。海辺の荒地に2年ぶりに神楽の音色が響き渡り、地区の再生を予感させます。
「産屋」は地区の新生児を祝福する生育儀礼でもある

クライマックスは「産屋」という、記紀神話に由来する演目です。海の神の娘である豊玉姫が山幸彦との子を身ごもり、出産のため産屋に入ります。「中を覗いてはいけない」という約束を破って、山幸彦が覗いてしまうと、そこには美しい姫とは似ても似つかぬ龍蛇の姿が。
正体を見られた豊玉姫が怒りの形相の龍神となって舞い戻り、山幸彦との壮絶な大立ち回りを演じます。その狂気の姿は、荒れ狂う海を写しとったもののようです。海との抜き差しならぬ交流を生きて来た、漁師の神楽といえるでしょう。
海辺に再生の音を響かせる雄勝法印神楽

コメント

  • 東北に根づく芸能には、困難から立ち上がる魂が込められているー「廻り神楽」
    - 二代目高橋竹山(津軽三味線奏者)
  • 黒森神楽は陸中沿岸の人々の魂の拠り處。震災後もその生き様に寄り添い、支え続けるー「廻り神楽」
    - 神田より子(民俗学者)
  • 神楽を次の世代に引き継ぐのが私の使命。この映画はそれを後押ししてくれるー「廻り神楽」
    - 松本文雄(黒森神楽保存会代表)
  • 海のほとりには、常に生と死、悲しみと悦びの二つの世界が波打ってますー「海の産屋」
    - 酒井卯作(民俗学者)
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