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2020.12.11

特集:修験と花祭り

山の精神を伝える 驚くべき修行・勤行・儀礼・芸能―

特集:修験と花祭りでは、日本人の山への信仰を、精緻な儀礼や芸能へと発達させ、驚くべき宇宙観を現出させた修験道の修行と花祭りを捉えた2作品をお送りします。

『修験 羽黒山秋の峰』は、山形県の羽黒修験が行う門外不出の秘密の修行「秋の峰」を史上初めて撮影した特別な記録。2ヶ月間の期間限定で配信します。『花祭り〜愛知県北設楽郡東栄町 月〜』は、神々や山の精霊を聖なる湯でもてなして、生まれ清まりを願う「花祭り」の複雑なコスモロジーを、山本ひろ子と神語り研究会の監修で読み解いた意欲作です。

※『修験 羽黒山秋の峰』は2021年2月14日で配信を終了しました。『花祭り〜愛知県北設楽郡東栄町 月〜』は引き続きご覧になることができます。

→【期間限定再配信中:2021年6月4日(金)〜7月4日(日)】

【シネマ館】  『修験 羽黒山秋の峰』(2005年/115分) 
【シネマ館】  『花祭り〜愛知県北設楽郡東栄町 月〜』(1992年/76分)

■『修験 羽黒山秋の峰』

人は、死んで山に入り、山を胎内として再生する。このような古代的感覚を色濃く残す羽黒修験は、中世から密教的色彩に彩られ複雑に儀礼を発達させた。その羽黒修験のなかでも、部外者の立入を禁じ、門外不出とされる9日間の秘密の修行「羽黒修験・秋の峰」を史上初めて撮影。出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)を舞台に、生きながら〈死と再生〉〈生まれ清まり〉を体験する修験者の修行が、精緻な宇宙観と哲学に裏打ちされていることに驚きを禁じ得ない。秘密の儀礼を通して、日本人が山に対して抱いてきた精神世界が垣間見える。
奥三河の「花祭り」や信州遠山の「霜月祭」にみられる中世芸能の〈生まれ清まり〉の本質が、この「修験」の行の中に見られる。
全容を後世にむけて記録保存するという目的のために、特別に撮影が実現した。
出羽三山を開いた能除太子

月山に登拝する修験者

■『花祭り〜愛知県北設楽郡東栄町 月〜』

中世末期、天竜川水系に成立した大神楽を祖型とする花祭りは、毎年11月から正月にかけて北設楽郡の十数の地区で行われている。天竜川の交通に伴ってこの地を訪れた修験者や御師によって形成・発展したものと思われ、諏訪・伊勢・熊野信仰の影響がうかがわれる。花太夫が聖なる湯によって神仏をもてなす「湯立て」の神事は宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』のモチーフになったといわれる。イニシエーションの意味を持つ青少年の舞、荒々しい鬼たち、翁など、祭りの場には様々なカミが入れ替わり立ち替わり現れる。山の民の祈りの深層にダイブする記録である。山本ひろ子と神語り研究会の調査・研究をもとに映像化。
花祭りに姿を現す鬼

花祭りの「花」稚児の舞

コメント

  • 羽黒山麓の手向から山中の修行道場荒澤寺に入った入峰者は、断食、水断、不眠、山中の霊地の巡拝などで身体を限界状況においこまれる。またその一方で、一切の罪を懺悔し、自分自身が仏性を持ち、この身このまま成仏することを確信する。そして自己の成仏を心身ともに感得するために人間の成仏の階梯とされる地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天、声聞、縁覚、菩薩、仏の十界のそれぞれにあてはめられた修行をする。その際、峰入りにあたっては、まず手向の荒澤寺里坊の正善院(羽黒修験本宗本部)で葬式によって象徴的に死んだうえで、大梵天を黄金堂にむけて倒すことによって受胎し、母体とされた山、荒澤寺に入って上記の修行をする。そして胎内で成長して、仏として再生したことをよりリアルに感じさせる為に産声を上げ、誕生を示す出峰の儀礼をする。里人も彼らが峰入り修行によって即身成仏したことを、盆に仏を迎える為に焚く迎え火によって祝福するのである。[修験 羽黒山秋の峰DVD解説]より
    - 宮家準(慶應義塾大学名誉教授)
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