エトノスシネマ

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特集FEATURE

2020.10.30

特集:台湾・世界一美しい船

ヤミ族の伝統の継承と葛藤をみずみずしく描いた2作品

人類学的映像記録として高く評価されながら、これまでソフト化されず視聴の機会が極めて限られてきたアンドル・リモンド監督による2作品を〈エトノス シネマ〉リリース記念として、世界初配信します。撮影当時の「制作ノート」を特別採録!(本ページの下部にあるリンクからご覧ください)

『チヌリクラン〜黒潮の民ヤミ族の船』(2006年/93分)
『アラヨの歌〜ヤミ族伝統のシイラ漁』(2006年/17分)

■世界一美しい船をつくる人々の物語

台湾の東南海岸沖にある蘭嶼(らんしょ)には、ヤミ(タオ)族が暮らしている。蘭嶼では代々「チヌリクラン」という手漕ぎの10人乗りの船が造られてきた。戦前、日本の民族学者が憧憬し、世界で一番美しいと呼んだ伝統のトビウオ漁船だ。祖先はこの船でフィリピンのバタン諸島からやってきたと伝えられている。
島のイモロド村で27年ぶりにチヌリクランが造られることになった。『チヌリクラン〜黒潮の民ヤミ族の船』は、船材の伐り出しから、船体づくり、伝統模様の彫刻をほどこすまで丹念に追い、さらに続く進水式の儀礼と処女航海、そしてトビウオの初漁までを一年にわたって記録した。船長の座をめぐって2人の男が競い合う様子、男たちの伝統的な夜を徹した歌会なども捉えており、チヌリクランにからむ人間ドラマから、蘭嶼の現状が見えてくる。
完成したチヌリクラン

■台湾の〈老人と海〉

トビウオの季節がやってくると、それを追ってアラヨ(シイラ)が回遊してくる。アラヨは「神様の魚」と信じられている。漁解禁の朝、シイラ捕り名人シャプン・マカラシュ(68)は、手作りの小舟で一人沖に漕ぎ出て伝統のシイラ漁にとりかかる。まず活餌のトビウオを捕まえ、舟を漕ぎながら、「アラヨよ、さあ寄ってきてこの釣り針にかかっておくれ、そしたらお礼にこの若い雄鶏をあげよう」と歌いかける。するとアラヨが海面に飛び上がった。水揚げした後、初漁のシイラは伝統にのっとって丁寧に捌かれ、着飾った妻に厳かに迎えられ、誇らし気に漁師の家の干し棚に飾られる。老漁師の語りのみで伝える詩情あふれる短編『アラヨの歌(台湾・蘭嶼)』は、まさに台湾の〈老人と海〉だ。
ヤミ族の老漁師

■英国人監督が見つめた蘭嶼の文化

2作を監督したアンドル・リモンド監督はロンドン出身。オックスフォード大学から台湾師範大学に学び、台湾原住民の文化に関心を持った。蘭嶼での撮影は3年以上を費やした。伝統的な風習を色濃く残す保守的な土地柄でもあるため、撮影機材を持ち込んだ当初は、適当な通訳者がなく現地の人とトラブルになることもあったという。撮影当時、ヤミ族の30代以下の若者はもっぱら中国語を話し、40代以上は日常的にヤミ語を話しており、コミュニケーションと同時に、世代間の文化の継承が大きな課題となっていた。
撮影中のアンドル・リモンド監督

■映画が問う島の〈現代〉

『チヌリクラン〜黒潮の民ヤミ族の船』では、チヌリクランの建造を巡って、世代の異なる村人や文化保護政策などの思惑が交錯し、様々な葛藤が生じる様子が描かれる。伝統のトビウオ漁が資源減少により壊滅的となるなか、船をつくることが彼らにとってどんな意味を持つのか?また、映画には80年代から蘭嶼島に建設された核燃料廃棄物の貯蔵所に対して伝統的なやり方で異議申し立てするヤミ族の姿も登場する。現代生活における伝統の姿を問う作品でもあるのだ。
核燃料廃棄物貯蔵所への抗議

コメント

  • オクスフォード大学で中国語を学び、台湾と日本に滞在した若い記録映画作者が3年かけて蘭嶼(旧紅頭嶼)で現地撮影した2本の記録映画。人類学的映像記録として申し分なく、配慮の行き届いた素晴らしい映画だ。 [現代思想/台湾に学ぶ/2008/05]より
    - 川田順造(人類学者)